名句うがち読み 第13回 川崎展宏

2016.12.29.Thu.01:34



おでん酒百年もつかこの世紀

『冬』平成15年より

世界規模で激震の走った一年であり、掲句が浮かんだ。
大衆酒場で旨いおでんをつつきながら酒を飲む。独りか、気心の知れた仲間と一緒か。卑近な話で盛り上がるなか作者は心から離れない、だが口にすれば酒も不味くなり場も白ける人類の重大問題を憂いている。誰にも言わずしみじみと世界と人間の行方に思いを馳せる。
人類滅亡の危機は昨今至るところにあるが、作者の抱く最悪のストーリーは地球の気候変動であろう。温暖化現象により歳時記が機能しなくなりつつあるこの頃である。虚子を再評価し花鳥諷詠の重要性を説いた作者としては豊かな季語が無効化してゆくのが何よりも滅びの予兆であり進行だったのではないか?〈あらぬ方へ手毬のそれし地球かな〉といった警句も残している。

他に作者の句として

「大和」よりヨモツヒラサカスミレサク
二人してしづかに泉にごしけり
炭の塵きらきら上がる炭を挽く
冬と云ふ口笛吹くやうにフユ


など。

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*写真素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)さんより画像を頂きました。


名句うがち読み 第12回 大塚迷路

2016.12.23.Fri.01:21

今更だがそれは国宝だぞ毛虫

『誰か居る』平成28年より


通常国宝たる絵画は様々な手段で守られているものだが、その間隙をぬった毛虫がいた。「今更だが」ということは既に貴重な絵の一部を喰ってしまった後であろう。作者はその顛末を見届けてツッコミを入れる。
毛虫は夏の季語。口語での語りかけの手法に、やれやれという嘆息と同時に重罪を犯してしまった毛虫への憐憫を感じる。国宝とは人が決めたものに過ぎず、毛虫にはあくまでも食物。人の価値観で毛虫に罰を下すことへの皮肉さえ込められているかもしれない。
果たして虫食いの国宝はどうなるのか、作者は毛虫をどうするのか、良い意味で無責任に読者の想像に委ねられている。
他に作者の句として

着水の水鳥水を疑わず
空蝉の見つめる蝉の七日間
向日葵に喰い込む弾や誰か居る
秋雲は秋雲にしかぶつからず


など。

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名句うがち読み 第11回 神尾久美子

2016.12.19.Mon.01:53




雪催ふ琴になる木となれぬ木と

『桐の木』昭和53年より

琴の材料になるのは桐の木。材料たりうる桐のみ伐採されるそうだ。そう聞くと落ちこぼれの桐でいたい気もするが、琴という楽器の暗喩として詩人があると感じるのはうがち読みか?琴になることで表現が出来る、曲を奏で詩を紡げる。が、誰でも琴になれるわけでない。峻厳な線引きが桐にも人にもあるのだろう。今にも雪が降るであろう立ち込めた寒気が否応なく桐と人の生を決定してゆく。
雪催いと琴の取り合わせが美しい。2016年12月号の『NHK俳句』でも紹介されている秀句である。単純に神秘的な光景を描いた写生の句ではなく境涯句ともとれる奥の深さ。そして作者は間違いなくとびきり上質な琴である。
他に作者の句として

むかしよりしぐれは淡し島紬
菊晴や濯げる胸の月夜の詩
野火山火柩に古きものはなし


など。

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名句うがち読み 第10回 喪字男

2016.12.17.Sat.02:18

長き夜のダース・ベイダー卿の息 喪字男

前回の対馬句の覇者論で掲句を思い出した。秋の夜長と冬の日短は表裏一体の季語であるし是非対で紹介したくなった。ダース・ベイダー卿は名作スターウォーズシリーズに君臨するアンチヒーロー。己に負けて悪となり宇宙制服の覇道を突き進む。そんな覇者にも平等に秋の夜は長い。悲哀や心の痛み、捨てたはずのものが去来する。あの呼吸音をさせながら。我々が観たり読んだりする覇者の栄枯盛衰はあっという間だが当人には長く苦悩の日々なのかもしれない。
長き夜という典雅な季語とフィクションではありながら有名人のダース・ベイダー卿との取り合わせが絶妙。我々が呼び捨てにしがちなこの悪役に「卿」をつけるこだわりも作者らしい。そして見た目の面白さにとらわれて作者の既存俳句への挑戦を見逃すなかれ。
他に作者の句として

対UFO秘密兵器として水母
てふてふと扶養家族の欄に書く
夜桜が下剤のやうに効いてゐる


など。

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名句うがち読み 第9回 対馬康子

2016.12.15.Thu.09:10

覇者いつも海より来たる日短 対馬康子

『竟鳴』平成26年より

覇者とは王者の対義語で武力や権謀術数を以って国を統治する者。海から来た覇者と言えば日本では元冦をまず思い浮かべる。世界史に目を移せばインカ帝国を滅ぼしたピサロでもいいし、帝国主義で植民地を広げた列強でもいい、とにかく枚挙にいとまがない。それに気づいたのか、思い出したのが冬。それも昼が一番短くなる前後の気ぜわしい時期。発見の感慨に浸る間も無く日常が慌ただしく過ぎてゆく。覇者の登場から滅亡まで教科書をめくってゆけばあっという間のように。
上五中七の勇壮な措辞から大きな季語で結ばれるかと思いきや、日短で締める作者のセンスに脱帽。ちなみに日短は普通「ひみじか」の四音だが、下五に来るときは「ひ」を少し伸ばすか一拍おいて五音とする。

作者の句としては他に

マフラーをはずせば首細き宇宙
国の名は大白鳥と答えけり
欠けてゆく月の音して雛道具


など。


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